ハイナー・ミュラー受容の現在

20190225 谷川道子記


2019年1月9日は、ハイナー・ミュラー生誕90年の誕生日だった。来年2010年は没後25年にあたる。1995年の66歳での逝去は、「ユリイカ追悼特集」に触れられているように大変な騒ぎだったが、この間にハイナー・ミュラー受容はどのように変わってきたのだろうか。ベルリン在住の旧友が、折に触れて新聞記事や劇評、コメント、ニュースを送ってくれるのだが、その中からベルリン新聞での冷静でかつ敬愛にあふれた詩人ペトラ・コーゼの記事を選んで訳出してみた。壁の崩壊とドイツ再統一をもろに東ドイツ側で受け止めて逝ったミュラー。そうか、「詩人にして劇作家、神託にして聖像イコン」か。柔らかく暖かい握手と抱擁。「群像」誌での対談は1993年10月、今思い出しても切ない。イコンかなあ。


 会員になっている国際ハイナー・ミュラー協会IHMGから定期的に送られてくるニュースレターでは、ミュラー関連の出版や上演、催し、シンポジウムなどの情報も載せられている。ドイツ各地でミュラー上演は続いている、『カルテット』『ハムレットマシーン』『指令』…いつも10数作品を越えるようだ。現在上演中のうちで、二つだけ言及しておきたい。


  ベルリーナー・アンサンブルで2019年1月から上演されているのが、劇作家のフリッツ・カーター(1966∼)の新作『ハイナ―Ⅰ~Ⅳ』。カーターは論創社の「ドイツ現代戯曲選 12/30」に『愛するとき死ぬとき』が浅井晶子訳で刊行されているが,東西ドイツを行き来しながら醒めた眼で悲喜劇を書き続けてきた劇作家。アーミン・ペトラスの芸名で演出もしているが、今回は若いラルス-オレ・ワルブルク演出。未見なので劇評から察するに、晩年のハイナ―・ミュラーの姿を4つの場面で悲喜劇調に浮かび上がらせているようだ。2019年をまずはこの『ハイナ―Ⅰ~Ⅳ』でスタートさせたのが、ベルリーナー・アンサンブル流のオマージュなのだろう。


  もう一つが、昨年から続いているゴーリキー劇場のExil Ensamble(難民劇団)による『ハムレットマシーンHM』。ミュラーの原作に、シリア出身のアイハム・アジド・アガの改作による英語・ドイツ語・アラビア語による多言語劇。道化喜劇の扮装で、好評ゆえにいまなおレパートリーに載っていて、HPでトレーラーも覗いてみることができる。実はこの『HM』の昨2018年12月の舞台を、我らがTMPの相棒の小松原由理さんがベルリンまで飛んで、しっかり観劇した抜群の作品紹介を、このTMPのHPにもリンクしてくださっている。曰く「ポストマイグラント演劇」だと。是非、この亡命アンサンブルの改作『ハムレットマシーン』を日本に招聘上演できないだろうかと思案構想中。どうか、何らかの形で上手くいきますように。上演台本も資料も準備してスタンバっているので、応援を!!