TMP=多和田・ミュラー・プロジェクト=設立宣言
1977年に『ハムレットマシーン』がひっそりと世に出たころは、一体これは何なのだろうと、何故か波状的に世界中が思った。その後、謎の塊のように、伝播していった。日本でも1990年に設立されたHMP=最初は「ハムレットマシーン・プロジェクト」、次第に「ハイナ―・ミュラー・プロジェクト」にスライドしていった。折りしもハイナ―・ミュラーがベルリン・ドイツ座で、『ハムレット』と合体させた8時間余の『ハムレット/マシーン』を演出した時と重なって、1989/90年の壁の崩壊=ドイツ再統一と重なった。
だが、芥川賞作家 多和田葉子と旧東ドイツの作家ハイナー・ミュラーの間に、一体どういう関係があるというのだろうか。
実は多和田葉子が渡独してまもない 1991 年にハンブルク大学 に提出した修士論文が その『ハムレットマ シーン』論だった。
しかも、神話・ ジェンダー・翻訳 ・間テクスト性 ・ 夢幻能 ・ 死(後)の演劇 ――彼女がそこでハイナー・ミュラーと共に「読むこと」(=リ・レクチュール)の旅を始動させ、それによって開かれたのは、そういった時代のコンテクスト(文脈)とは関係ない、 様々に魅惑的な 「窓」だった 。そこから見えてきた 「景色 」は、我々が見てきた、見えてきた「景色」とは、一風変わったものに見えた。
だが、多和田葉子のハイナ―・ミュラーへの読みは、今はどう見えるのだろうか。そうご本人に問いかけて、毎年劇場シアターXで恒例となったピアニスト高瀬アキとの掛け合いの「晩秋のカバレット」で、『ハイナ―・ミュラーとハムレットマシーン』を取り上げてもらうこととなった。多和田葉子とハイナー・ミュラーの怪しい(?)関係が、そこから果たして、どう見えてくるだろうか。演劇表象と文學的営為の関連はどうあるのか。
壁崩壊・東西ドイツ統一後 30 年を 迎えた2019/2020年、TMPは、生誕60年の多和田と生誕90年・没後25年のミュラーを/(スラッシュ)で関わらせるプロジェクトTMPの名において、我々も、この間の30年と、そのTMの 「読みの 旅」に共鳴・共振・反発 するかのように、日本の研究者やアーティストたちがそれぞれに 、多和田 /ミュラー の「窓」から、自らを、日本を、そして世界の「景色」をのぞき込む 。そういうプロジェクトを立ち上げたい、と考えた。徒手空拳の試みながら、「3・11後8年の今」も思いつつ、自らと地球のこれからも考え合わせる、世代と点と線を繋いでいくような試みになればいいと念じている。
2019年2月25日 TMPメンバー
谷川道子、山口裕之、小松原由理、内野儀、尾方一郎、坂口勝彦、
谷口幸代、川口智子、小山ゆうな、渋革まろん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
実際にはいまだ、あれもこれも模索中の企画や構想も多いのだが、いま2019年3月半ばの時点での始発点・到達点をいくつか、とりあえず披瀝させて頂こうと思う。勇み足が多いのは、ご容赦下さい!HPも何とか立ち上がりつつ、もっか随時鋭意努力中。
まず中心に構想されているのが、2019年春に東京外語大出版会から刊行予定の論集『多和田葉子/ハイナー・ミュラー~演劇表象の現場』。多和田葉子の『HM論』とカバレット上演台本『ハイナー・ミュラー』を両極に、各論者がそこにどういう景色を覗きこんで展開していくか。
のみならず、今回のTMP(多和田/ミュラー・プロジェクト)2019~2020傘下でも、いくつかの企画が進行している。早とちりの勇み足を覚悟のうえで、進行状況をいくつか。
まだ日本では、「多和田葉子の演劇」という世界・フィールドは確立されていないようなので、実際はそうでもない実情を、何とか見える化する努力はできないかと。
・ まずは、2019年1月にシアターXでの多和田葉子『晩秋のカバレット:ハイナー・ミュラー』が実現する。
・ それと相前後する形で、小松原由理訳小山ゆうな演出『オルフェウスあるいはイザナギ』と、川口智子演出による『夜ヒカル鶴の仮面』の2本の多和田戯曲上演が企画中。
・ 川口智子は2018年に多和田戯曲『動物たちのバベル』を国立市の市民劇として上演して評判を得ており、2020年から、多和田葉子作の音楽劇を国立市の市民劇として、ともに創っていこうという話もある。
こういう若手を中心に、今回のTMP(のT)を担うtmpという若いグループが、HPや「多和田演劇本」の活動部隊としてもできつつあるところだ。
・ つまり、並行して、これまでの多和田戯曲の上演に関する記録や論考などを紹介する「多和田葉子演劇本」を、東京外語大出版本の他に、論創社からも出そうということになっている。多和田葉子研究家の谷口幸代を中心に、新訳の戯曲2本と、多和田演劇上演に関する記録+論考集。これは2020年秋に刊行予定。
もちろんTMPのプロジェクトなので、ハイナー・ミュラー関連も進行中。
・ 美術家やなぎみわの『神話機械』は、独特にミュラーのテクストを使ったパフォーマンスを組み込んで、1年間にわたって各地の美術館を回る。すでに2月に高松美術館で始まって、小松原由理が観に行って、その記事をHPに。参照されたい。
・ 京都の劇団地点は『ハムレットマシーンHM』を京都の新しい劇場E9で上演の予定。
今回のTMPは、それこそ、1990年から30年という節目を読み直す機会でもあろう。難民問題はそのこととも絡んでくるかとは思う。多和田/ミュラーというのは、今の見通しがたい世界の現在状況を映し出すちょうどいい合わせ鏡の契機ではないかかとも思う。さまざまな点と線を結びつつ、そこから何がどんな景色が見えて展開していくかを、我々自身が、楽しみにしているところである。 乞うご期待!!
20190225 谷川道子記